今月頭に以下の記事を書いた。
長年使われたKristallweizenに関して一度も局面評価のクレームを受けたことが無いと書いたが,実際はそれほど単純ではない。
以下の採用時の記事でコメントも入れてあるがそもそもコンピュータ将棋界とプロ棋界では宣言法の扱いが異なる。27点法と24点法である。
24点法を採用しているのがプロ棋界で,アマチュア棋戦では27点法が主流らしいので,人間界とコンピュータ界の対立ではない。将棋界でプロ棋戦だけ別とするべきでだろう。この点は事前に注意しておいたのでクレームとして受けていない。また具体的に依頼があれば対応するとコメントしてあるが,依頼は特に受けていない。
受けたことがあるのは棋王戦で後手番の伊藤匠七段が意図的に持将棋へ持ち込んだという話についての取材である。コンピュータ界隈では後手番の有効策のひとつとされているがそれがどの程度有効であるかとの定量評価は難しい。ただ,結果論として入玉将棋は増えているようだ。
そもそもアマとプロの差を簡単に示す必要がある。プロは文字通り興行で将棋を行う。つまり,衆目を集める,客から金がとれる将棋を行う義務がある。入玉将棋は見世物としてはウケないだろう。
逆にアマチュアはどうだろう。プロ棋戦と異なりアマチュア大会は大勢が一日で対戦を行い決められた時間でその日の優勝者を決めなくてはならない。つまり,引き分けは困るのである。再対局としても時間がかかり過ぎるのは望まない。そのため入玉将棋でも勝敗がついた方がいいということで27点法が採用されている。コンピュータ将棋界隈も歴史的には同様の道筋である。
ということで,伊藤七段はプロとしてよいのかと問題視する古参が出る理由にもなる。興行として行っているのに入玉を目指すのはプロとして如何なものかとの言い分となる。
コンピュータ将棋界隈からすると前述のとおり別に珍しくもない選択肢である。が,新聞記事になるのだから最初の一回くらいは興行としても面白かったのではと個人的には思われる。今後も続くようならルール変更などが必要となるかもしれないが,プロ棋戦のみのルール変更なので例によって密室会議だろう。
別世界で面白い入玉局面がある。
プロでもアマでもなくコンピュータでもなく将棋漫画界である。
上記リンク先で説明されているのは119話で入玉に行く過程が描かれているが,途中三手詰めを見逃したりと結構無茶な棋譜となっている。
その後,122話で先手番が宣言勝ちを行う。面白いのはその局面が必至状態であることだ。
通常必至がかかる状態は即詰みに打ち取らない限り負けであるが,宣言法であれば王手がかかっていない限り宣言する権利が生まれる。そこで宣言勝ちという奇妙なシナリオを作ったのだろう。ネタとしては面白いが24点法での宣言勝ちは31点が必須となるため必至局面を作るのに苦労したようだ。結果上記のような批判を受ける酷い棋譜となったのだろう。
せめて宣言で引き分け(再対局)にしておけばよかっただろうが,そうしても再度「勝つ」シナリオが必要になるため妥協点とされたことであろう。
龍と苺という漫画はコロナ禍の2020年から掲載されておりコンピュータ将棋がプロ棋界にどういった影響を及ぼしているか比較的リアリティのある描画がされている。しかしながら,ネット上の評判を見る限り各方面色々と物議を醸しているようである。
この辺の話は改めて別ネタとしよう。