一週間経ってしまいましたが先週土日に第5回電竜戦本戦が開催されました。
結果は上記リンクの通り,氷彗が初優勝となりました。
氷彗は昨年7月のTSEC4,12月の第4回本戦と参加されておりデビュー直後から上位に入っておりました。運営側としては新星誕生として喜んでいたところです。
ところが,優勝後解禁された情報によると歴戦のベテランだったと公開されています。
大森さんは2014年の第2回の電王トーナメントにnozomi名義で参加し,第3回電王トーナメントでは準優勝を果たしております。また,世界コンピュータ将棋選手権には第25回から同名のnozomi名義でエントリーされています。
私個人のデビュー戦が2017年の第5回電王トーナメント,2018年の第28回世界コンピュータ将棋選手権ですので3年先輩に当たります。電王トーナメントの予選後の懇親会で初参加の私に50万円以上の賞金には所得税がかかる話をされたのを覚えております。初対面で酒の肴レベルの話です。もちろん決勝の前なのでその後準優勝も先輩に当たるとは思いもよりませんでした。
nozomiの歴史を簡単に見ていくと当初よりStockfishベースで開発を進められており,初期段階ではBonanzaの評価関数の移植,その後Aperyなどを参考にした独自学習部の制作をなっています。独自学習の成果が電王トーナメントでの入賞に繋がったものと考えられます。以後2020年までnozomi名義での参加が続きます。
2021年にはsakura名義で第31回世界コンピュータ将棋選手権にエントリー。この際dlshogiベースとなっており名義変更の主な理由と思われます。その後HEROZチームへの編入に繋がります。
電竜戦視点で見ますと,2020年の第1回本戦にnozomi,2021年の第2回本戦にsakura,2022年の第3回本戦にHEROZチームでエントリーされています。
以降は冒頭に記載した通り氷彗となります。
氷彗の技術的な話は御本人が感想戦として書かれていますが,将棋界からStockfishへ輸出されたNNUEの逆輸入ですね。nnue-pytorch含めStockfish内で独自進化した部分を将棋界に取り組んだものと思われます。個人的には以前からアピール文を書けば独創賞候補じゃないかと内内に話しておりました。
個人的なメモも兼ねて非情に簡単に羅列しておきます。
HalfKA:KPのみならず玉同士の情報も加味
Element-wise multiply:L1層内で一度掛算
SqrClippedReLU:ReLUする前に二乗
LayerStack:ニューラルネットワークを状況により切り分け(Stockfishでは駒数)
技術的には完全にブレイクスルーの域と思いますので,これが多くのチームに波及すれば上位レートがひとつかふたつ上にスライドすることになります。素晴らしいですね。
遠吠えになりますがウチ二つはStockfishより前に私が非公開でテスト済みです。学習が下手なのかレート差が微差なのか大会などで採用していません。A100で二週間といった計算機リソースがないことも原因かもしれません。
マシンパワーが目立つ勝利では全く面白くないというのは私個人がモータースポーツに寄せる思いですが,こういった技術的進歩で差をつける方は嬉しいです。
昨年のハードウェア統一戦でも活躍でしたが今年も期待大です。
上位以外の話題となりますと初参加勢ですね。
私が数え間違えていなければ,鯤鱶,KKO,奏,中富線56号,チョコバナナ,清風と6チームです。上記の氷彗のように過去に別名義での参加があるかもしれませんが大豊作と言って良いと思います。
鯤鱶チームは恐らく国外からですね。そしてkoronさんの最年少記録を超える12歳のKKOチームとかなりの衝撃です。入力ミスなどで間違えていないとすればです。
初参加チームはトラブルが多発するのが経験則ですが,今年は比較的準備がしっかりされていたようです。鯤鱶,奏,中富線56号辺りは結構強かったですね。
気になったのは清風さんで初戦から不戦敗が続き予選は全敗となっていました。それでも二日目があるのが電竜戦ですので,C級リーグで11勝されています。
結果として全敗の居ない大会となりました。運営の立場で私が少し気にしている点です。
また,地味にウオッチしているのが芝浦将棋Softmaxですが,独自のアルゴリズム・学習手法で学習するモデルがとうとうNNUEに移行したようです。今後の伸びに期待しています。
個人的な話を最後にしますと予選の二番絞りが20位とshotgunより下位になりました。まぁ普通に考えると異常事態ですが,ソルコフポイントを見ると8位で上位ですので弱いわけではないようです。事実予選でdlshogiに土を付けたのが二番絞りと氷彗のみです。以前から少し問題視しているのですが先後組にすると2勝動くスイス式トーナメント(特に勝数評価)はあまり予選向きではないような気がします。
多くの方が楽しめることと厳格な順位付けを両立するような予選の在り方を検討することは今後の課題となります。アイデアあれば頂きたい限りです。
最後になりましたが,解説の勝又先生,聞き手の鷺宮ローランさん,真澤千星さん長丁場の放送ありがとうございました。ご支援下さったスポンサー様各位にも謝意を申し上げます。