二番絞りの精度の話(2022年版)

昨年以下のような話になっていました。

非GPU勢DL組その2 - 48's diary

二番絞りの計測集計(第31回選手権分) - 48's diary

 

要約すると一手につき評価関数を3回呼ぶだけでアマ三段クラス。

恐らく最高精度の評価関数だろうという話でした。

 

3回というのは最低ラインを模索した結果ですね。1回や2回では終盤詰めきらず全く勝てない状況でした。

 

それが今年は随分と変わりました。

 

全くの探索なしでfloodgateでレーティングが付いています。

nibanshibori_1pがレート2355ということで少し上にうちの地ビールやYSSなどが居て、すぐ下にcoduckが居ます。

dlshogi_pre32_p1やDLSuisho0も同様な試みっぽいですが、レート差は100以上ありますね。

15年ほど前ですが初参加優勝したBonanzaの初期バージョンがこのくらいのレーティングとの話もあります。アマ高段者クラスと言って良いんでしょうか。

全くの探索なしでここまで来たと言うことです。隔世の感がありますし、そもそも探索なしって意味わかりませんよね。

 

わけがわからない。

 

他にも10手以上の即詰みを指しているんですが、当然読み切ったということではなくその場その場で指し手を選んだものが続けて見ると即詰みだったということです。

なんか哲学的な感じもしますが、これならもっと長手数も詰められるのかもしれません。

何か色々遊べそうな気がします。

電竜戦TSEC3ファイナルの結果

決勝と言わずファイナルと言うのは参考にしたTCECの影響何でしょうか?

もちろん,この土曜日が電竜戦TSEC3ファイナルの日のことですが,USIプロトコルというのがコンピュータ将棋界で広く使われるプロトコルってのが界隈にプチウケした理由ですね。

 

ちなみにうちの予選のまとめは以下です。 

bleu48.hatenablog.com

 

公式の動画配信は以下です。

佐々木先生,竹部先生,それに講演の白鳥先生ありがとうございました。

 

www.youtube.com

 

そしてファイナルの結果。

電竜戦TSEC3指定局面戦【ファイナル】【第一部居飛車部門】(9回戦) 勝敗表

電竜戦TSEC3指定局面戦【ファイナル】【第二部相振りファイナル部門】(9回戦) 勝敗表

電竜戦TSEC3指定局面戦【ファイナル】【第三ネタ部門】(6回戦) 勝敗表

電竜戦TSEC3指定局面戦【ファイナル】【第四部対抗系部門】(9回戦) 勝敗表

 

二番絞りの戦績だけ記録すると,居飛車部門4位,相振り部門2位,ネタ部門3位,対向形部門2位でした。

総合3位と予選と同じ順位ですね。賞状と賞金が頂けるそうです。

最後の対向形部門で1位が取れたら逆転2位だったのですが惜しいところでした。

 

既に予想されていたことですが,本ルールの課題局面問題ですと局面評価精度が生かせず,探索ノード数が多い方が有利と分かりやすい回答となりました。

ただ,想定以上に評価が難しい局面があったり大きな逆転があったりと時間をかけて精査した方が良い棋譜が沢山生成されたように思います。

個人的に公式YoutubeよりABEMA見てたので動画も後ほど見てみたいと思います。

 

次にB級リーグです。こちらは上記ファイナルのおまけ的ポジションで,予選落ちの人達にも同じ局面を体験してもらうというものです。オンライン戦ならではの余裕ですよね。

うちからは予選13位M1白ビールと予選25位地ビールYBWCがエントリーしました。

M1白ビール居飛車部門7位,相振り部門12位,ネタ部門6位,対向形部門3位でした。

地ビールYBWCは居飛車部門19位,相振り部門16位,ネタ部門20位,対向形部門18位でした。

全体的にはソフトの実力とマシンパワーの両方を兼ね備えたたぬきチームが上位を独占してましたが,ネタ部門のkoronがch∀g∀m∀を押さえて1位だとか対向形のM1白ビールが3位だとか部分的には下剋上があった感じです。

上位独占のお陰でM1白ビールが僅か2ポイントですが同率総合4位となりました。

省電力の薄型ノートPCにしては結構やりましたね。

B級の順位は特に表彰されたりしません。

 

電竜戦TSEC3指定局面戦【B級】【第一部居飛車部門】(9回戦) 勝敗表

電竜戦TSEC3指定局面戦【B級】【第二部相振りB級部門】(9回戦) 勝敗表

電竜戦TSEC3指定局面戦【B級】【第三ネタ部門】(6回戦) 勝敗表

電竜戦TSEC3指定局面戦【B級】【第四部対抗系部門】(9回戦) 勝敗表

 

まぁ,見てのとおりB級の下位は不戦敗などトラブルが多いことが分かります。単純に強い弱いではなく安定して動くと言うのも必須条件となりますので,作ったものを本番でテストするのかテストして持って来るのかくらいの気概の差が見られたと思っています。

 

電竜戦TSEC3予選の結果

関係者、参加者の皆様お疲れ様でした。

それに加藤清麗、あらきっぺさんも深夜まで対応ありがとうございました。

電竜戦TSEC3指定局面戦 勝敗表

 

www.youtube.com

 

 

私は公式Youtube配信後ABEMAトーナメントの方が終わった段階で寝てしまいました。今朝見る限り一部に異常や不戦敗が見当たりますが全体としては無事終了したように思います。

フルオートで対戦が進むのは、裏番組視聴者的には助かりますね。

ゆっくりと棋譜をご堪能下さい。

 

23日のファイナルには上位4チームが進出します。他のチームは希望すればBリーグが予選と似たシステムで同じ局面から戦えますので開発者も満足の仕様です。

ファイナルには佐々木勇気七段と竹部さゆり女流四段が来て下さるそうですので盛り上がりそうな予感がします。

第3回電竜戦TSEC3指定局面戦 --中継サイト--

 

で、運営側としてはそんな感じですがプレイヤー視点にしてみますと今回エントリーしたものは以下の3つになります。

 

二番絞りは5月の選手権モデルです。マシンはi9のCPUにRTX3090を2枚刺したうちのメイン開発機を投入しました。深層学習モデルが大きいので20knpsに届くか届かないくらいの探索速度です。

こいつがなんと3位に入りましてファイナル進出です。

上にはdlshogiと水匠ですが、A100x8とc6a.metalですのでモンスターマシンですね。

 

M1白ビールは2019年に公開して連盟モバイルや毎日新聞Youtube朝日新聞Youtube、もちろんニコ生将棋などでも利用されている例のアレです。このBlogでも紹介しましたが、M1搭載のMacBook Airでエントリーしました。以下にありますが、実質4コアの省電力PCでファンレスのため高負荷の連続運転にはやや不安がありました。

無事13位で完走したようなので普通に検討など使う方も問題ないんじゃないでしょうか。

連盟モバイルの勝率表示の件 - 48's diary

M1Macのベンチマークの一件 - 48's diary

 

地ビールYBWCは2019年からGo言語でスクラッチ実装しているエンジンの最新型です。Go言語自体も習作と言っていいくらいなのでコードが下手なところから徐々に上手に書けるようになってきているのが自分でもわかります。根本的に小さいループを高速に回すような数値計算には向いてないので探索速度は出ません。Pythonほどは酷くないにしても現状で300knpsあると良いくらいでした。これにYBWC(Young Brothers Wait Concept)という少し古い並列計算アルゴリズムを実装したのが本作になります。

結果的に多コアのCPUには随分負荷が入るようになりましたが探索深さはさほど増えていません。10年くらい前までは多コアを上手に使えてなかったと言うのを体感しました。

今回は34エントリー中25位とまずまず狙った辺りの結果でした。

Go言語雑感 - 48's diary

Go言語将棋の進捗 - 48's diary

Young Brothers Wait Concept - Chessprogramming wiki

スクラッチ勢の行方(その2) - 48's diary

 

ということで個人成績は3位、13位、25位と想定よりちょっと良かった印象です。

局面と対戦相手の当たり方には組み合わせ運がありますので、ラッキーがあったと考えるのが適当かと思います。

 

それでは皆様ファイナルでお会いしましょう。

ー--

追記:

今回8回戦の以下の局面がちょっと荒れた感じになりました。

と金が多すぎて最新の評価関数でも対応外なんでしょうかね?

 

 

 

AI超え

AI超えとは将棋界でよく使われるようになった言葉ですが,実際のところ全然超えてないのは明白なのですが(以下略)

 

ちょっと録画したまま放置していたNHK杯囲碁を見ていましたら,正真正銘のAI超えがありました。

 

6月19日(日)放送依田紀基九段と辻󠄀篤仁三段の一戦ですが,52手目3の六に放り込んだ局面。

棋譜再生 - NHK囲碁 - NHK

 

直前まで互角の戦いをしていたはずの評価値が一気に後手に振れました。

75%まで行っています。

この場面で普段からAIを利用した研究を行なっていると思われる解説者も聞き手も非常に珍しい手であることと同時にAIの挙動も珍しい現象であると述べています。

一般的には最善手を指して動かない,それ以外の手では程度次第ですが少し下がるのが通例です。指した側が上がるのは完全なAI側の読み抜けとなりますね。

 

通常モンテカルロ木探索では上位候補手を優先して探索するのですが,この候補手リストを作る部分が現在深層学習モデルです。この手を完全に読み抜けたということでしょう。

実際上の場面で3の六に放り込んだ白石はどうみても即取られる石です。

深層学習モデルでは探索以前に優先度を極度に下げられたのだと思われます。

とはいっても現在の計算機で人間スケールの持ち時間を使って抜けるのは非常に珍しいことです。

 

NHK杯の中継AIは山口さんの担当でAQだったと思うのですが,当時でも相当強いものであったと思います。それでもこういったことは起こるのですね。

もしかすると極度に低スペックなPCなのかもしれません。

NHK杯を全て見ているわけではないので,たまたまですが驚きました。

 

 

ところで,昨日は上野女流棋聖立葵杯も奪取されました。

藤沢さん相手でも大石取ってしまう剛腕は鳥肌ものですね。

棋力のない私でもすごいことが起こっていることが分かりました。

この二人すごいですよ。今後も注目です。

将棋のYoutube配信

前回名人戦毎日新聞Youtubeチャンネルが評価値放送を始めた話をしました。

第80期名人戦第5局@倉敷 - 48's diary

 

今後もA級順位戦を中心に行っていくそうです。

前回明かしていませんでしたが,この名人戦の評価値が好評で先行していた朝日新聞社Youtubeに部分的にでもPVを上回ったと現地で聞きました。

 

という流れで,次に朝日新聞社の方から打診が参りました。

PVの時系列変化を見たのでしょうね。盤面だけより評価値あった方が良いようです。

ということで,白ビールを使いたいとのことでしたが,特に差をつけることもないのでどうぞと快諾しておきました。

 

www.youtube.com

 

また,6月11日に朝日アマ名人戦も生中継されて,白ビールの評価値が使われていました。千日手2回はすごかったですね。

 

www.youtube.com

 

まだまだ不慣れで手際が悪いこともあるのですが非公開で練習するよりどんどん生中継の本番で慣れていく感じはYoutubeの文化でしょうか?

我々の運営している電竜戦もそんな雰囲気です。

 

宣伝ですが,予選7月9日(土)ファイナル7月23日(土)で予定されている指定局面戦の指定局面を検討するイベントを来週末19日(日)夜に準備しています。

公募も検討もはじめての試みですので不手際はあると思いますしどうなるやら私もよく分かっていません。

もちろんYoutube中継します。

第3回電竜戦TSEC3指定局面戦 --中継サイト--

 

 

第80期名人戦第5局@倉敷

本記事は主催メディアの興行を阻害しないよう速報性を失ってから公開しています。

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2022年5月28・29日(土・日)倉敷市芸文館において第80期名人戦第5局が開催されました。

渡辺明名人3勝、斎藤慎太郎八段1勝と名人が勝てば防衛となる一局を名人先手番で迎え防衛が期待される場面です。

 

立会人は谷川浩司永世名人、副立会は村山慈明七段と稲葉陽八段です。

谷川永世名人襲位初仕事としてメディア取材がありました。

 

といいますのは私現場に居りました。

実は本局の直前に毎日新聞社より連絡がありましてライブ中継に白ビールを用いたいとの許諾打診を受け、快諾はもちろんですがもし可能ならとお手伝い名義で現場入りさせて頂きました。

 

さすがに対局前の慌ただしい時間帯は避けて伺ったのですが、丁度上記の永世名人襲位についての記者会見直前に会場入りし、そのまま立ち会わせて頂きました。大山名人記念館の和室での会見でしたが,緊張して汗だくになりますし慣れない正座で足痺れました。

 

その後は、毎日新聞社テーブル付近で関係者にお話しさせて頂きました。ShogiGUIの便利な使い方を伝授したり今後の改善点を提案したり,加えて業界の情報交換もじっくりできました。

昼食明けの対局開始時や封じ手場面にもカメラマンなどに交じり対局場で見学させて頂きました。ABEMAの中継等に映り込んだかもしれません。音声も拾っていたらすみません。

選手権で準優勝した二番絞りの説明と読み筋、封じ手予測などを自前PC持ち込みで提供できました。どこかの記事になるかもしれません。あまり二番絞りを知られていない感じでしたので話題にも上がらない可能性もあります。

 

封手後の動画は副立ち会いの稲葉八段と担当記者が大山名人記念館の和室で撮影,これも現場で見せて頂きました。

 

現場には2018年の世界選手権で取材頂いた朝日新聞の記者なども居り色々と立ち話もできました。永世名人はじめ多数の棋士とも立ち話をさせて頂けたのは貴重な経験でした。選手権に足を運ぶAIに詳しい棋士を基準に認識していたため一般的な棋士は本当にAIの知識がない(または関心がないフリをしている)のを感じました。菅井先生は「振り飛車を強くして下さい」とストレートな注文でしたが,「それはAIには縛りプレイなので」と面白くない返をしてすみませんでした。

floodgateの二番絞りが後手番限定ですが結構飛車振っているとお伝えすると見てみますと回答されたのでfloodgateはときおり観て頂けているようです。

 

朝日新聞毎日新聞は現地から副立ち会いを交えてYoutube配信を行なっていましたが,ABEMAは現地スタッフはロケ班程度でスタジオの方に解説者やAI等のオペレータがいるようです。メディアも温度差や組織構造が違う感じですが対局室のカメラ映像は共用されており,動画班同志は仲良しな雰囲気です。

他にもメディア間で準備や機材の差や防衛間際になって飛び込んでくるNHKの強さなど色々と見せて頂きました。大組織も一枚岩でないところもちらほら見えましたが伏せておきます。

名人防衛の記者会見にも立ち合わせて頂きましたが,再度「防衛の勝因は新しく買ったパソコン」と強調されたのを記者はあまり拾わないのも違和感がありました。発言も許されたのですが,さすがに・・・ね。

 

終局後の報道関係者は今季ではなく来季のA級順位戦に関心を寄せている感じでした。(意味はわかりますね)

名古屋の対局場など多くの新しい企画が用意される模様です。(ご期待下さい)