以前も書きましたが、2022年末から将棋俱楽部24に二番絞りの探索無しモデルを投入しております。
小さなことからコツコツと(二番絞り近況) - 48's diary
年始にレート2700に達し,七段認定頂きました。
通信部分はカツ丼将棋さんのカツ丼坊2です。
CSA協会誌のカツ丼さんの記事(下記PDF p.69)によりますとfloodgateの2400は将棋俱楽部24の七段相当とのことでした。
http://www2.computer-shogi.org/journal/CSA_vol29.pdf
七段と言えば「プロ棋士レベル」と表現されています。
24と世間一般の段級レベル比較|対局に関して|将棋倶楽部24
盤面を一手も動かさずにこの大局観です。
何億局面も評価する古典モデルとは大違いですね。
本モデルは第32回世界コンピュータ将棋選手権準優勝の局面評価関数を利用して、現局面のみを評価した出力をその分布確率通り乱択で指すものです。GPUは使用しておらず一般的なCPUのみで0.1秒もかからず評価を終えます。Softmax温度を3.0/(手数)で与えており、初手では3.0となりますが手が進むにつれて乱数の影響が小さくなるように設定してあります。初手に関しては後述しています。
簡単な計測ですと第8世代インテルCPUの古いノートPCのシングルスレッドで秒11局面、最新のノートPCだとコア数次第ですが秒50~100局面程度は推論を行えます。50局面程度探索するとレートが500程度上がることはfloodgateで計測済みですが、本実験は対人計測ですので最も弱い探索無しで行いました。概ねの予測は段位者認定されればいいと思っておりました。
年始からの対局数も4000を超え、統計的な処理に耐えうると判断して分析を行ってみることにしました。
通算勝率は7割を僅かに超える程度で最高レートは2949で八段認定ですが、概ね七段です。もちろん誰でも対局できるようにしておりますので対戦相手にも依存するために連敗で六段に落ちることもあります。(どこかの研究会前後かなという高段者の連続対局があります。)
棋譜は将棋俱楽部24のサイトから対局者「nibanshibori」と検索いただければどなたでもダウンロード可能なようです。ただし、今回王手回避しないなどの反則手で終わる棋譜は柿木将棋で戦型分析できないので除外しています。
今回は先手番と後手番の棋譜で分けて処理します。
まず、先手番の統計計算です。
先手勝率74%ですが、千日手率が5%以上あり少し不思議な印象です。
実は探索無しでは局面の展開を行っていないため千日手の判定がありません。千日手判定には必ず指した後の局面が必要になるためですね。それを考えると実は異常に少ない気もします。
ちなみに連続王手の反則も生じることがあり、これはもちろん負けに含まれています。
平均手数は一般的な将棋の範囲と思われます。
先手番の戦型分類です。
四間飛車・三間飛車が多いですが、向かい飛車も中飛車もあります。
割と振っている感じですね。
居飛車も相掛かり・角換わり・横歩取り・雁木・矢倉など戦型は多彩ですね。
観戦している限りでは坂田流向かい飛車やパックマンも記憶にあります。
では初手です。
76歩が一番多いようです。
初手で68飛や78飛もあり、相当の振り飛車志向が分かります。
66歩も多い印象でしたが5%ありました。
二番絞りに限らずニューラルネットワークの分類出力にはSoftmaxの処理を行うのですが本ルーチンでは温度を3.0と設定しているため相当幅広い初手を選んでいます。
それでも16種類なので残りの14種類はさすがに選びづらいのでしょう。
加えてコメントするとどの初手も勝ち越しています。観戦する限りでは見慣れない初手の方が対局者が序盤に時間を使うようで苦戦している様子が伺えました。
では、後手番の棋譜を見ていきます。
後手勝率は7割を僅かに切ります。
千日手の割合も若干減るのですがこれは恐らく人間が先手番のときに千日手回避する傾向にあるのが原因に思います。
手数も標準的な将棋の範囲でしょう。
では、後手番の戦型分析です。
後手番も振り飛車が多いのですが、四間飛車やゴキ中志向が強くなります。これは人間でも同じような気がします。
居飛車は先手の誘導もありますが多彩な戦型選択が伺えます。先手では矢倉より雁木が多かったのですが後手では矢倉を選択するようです。
乱数の影響でしょうが一手損角換わりも選択肢にあるのが面白いですね。
最後に初手です。
といっても二番絞りは後手番ですから人間側の選択肢です。
人間界では76歩が多いようです。
76歩・26歩・56歩・78飛車まで4択という感じでしょうか。
奇を衒った初手で勝っている人もいるようですが、選択肢が16種類なのは先手二番絞りと同じでした。将棋の初手はこれくらいなのでしょうか。
あとは感想になるのですが、連続対戦を希望する対局者が多く占有されるのも問題があるとのことでカツ丼さんのアドバイス通りレーティング基準で連続対戦の可否を決めています。巨視的に見ればレーティングが高い人が強く、低い人が弱いのは間違いありませんが、本プログラムに対して特別適性があるような方もいらっしゃるようで棋譜を統計処理する上で発見されました。恐らく瞬時に深く読めるタイプです。
逆に高レーティングの方でも本プログラムに負けることもありますので結局プロ級認定は正しい気もします。
高段者の方から対戦相手として面白いとのコメントが多いため計測は十分とは思いますが、しばらくは対戦させておこうと思います。
色々とご意見頂きありがとうございます。
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追記:
ふと思い出したのですが,Youtuberの方が動画にされた棋譜がありまして偶然私も観戦していたのですが,これ初手二番絞りが58金左です。
反則手もなく終了しているので集計棋譜の中に入っているはずなのですが,上記の集計に入っていないのでもしかしたら集計外になっているのかもしれません。
まぁ,レアケースですが猶更記憶には残るものです。
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さらに追記:
11日にCSA(コンピュータ将棋協会)の例会があり本件報告したところ柿木将棋の柿木さんから次の手集計が16手で打ち切られているらしいということを聞きました。よほどのことがないと一局面の分岐数はこんなことにならないので問題なかったのだと思いますが,修正して増やしていただけそうです。
ちなみに将棋の初手は30種類あって,高明な女流棋士の竹部四段はほぼ公式戦で試したことあるんじゃないかなぁと仰っておられましたが,異例な棋士のコメントですので素人が真に受けてはいけません。上記58金左はもちろん18香や98香は奨励会・研修会でも叱られそうです。
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続編は長いので別ページにしてあります