炎上案件への介入の仕方(20年前の方法論)

最近,コンピュータ将棋関連で知名度が上がってプロ棋士始め一部の方から「天才プログラマー」などと呼ばれることがあります。ここ20年プログラムを書くのは基本的に自分の研究のためのツールとしか考えておりませんでした。

 

が,そういえばプログラマーらしきことをしていた時期がありました。20年以上前の学生時代のことです。当初は様々な短期アルバイトを繋いでいた最中に呼ばれたのがIT系のベンチャーでした。比較的自由な雰囲気と情報系の学生達と馴染んで,気が付いたら持ち帰りでもいいからと請負仕事になり,そのうち炎上案件に呼ばれることが多くなりました。考えてみると給与も倍々に跳ね上がり結構評価されていたことになります。炎上案件への介入もすぐマネージャーポジションで入ることが多くなりました。現場の超一流コーダーの方よりコーディングが遅かったのも理由のひとつでしょう。学生の身分で当時バナナより重い携帯電話を持つようになったものです。

具体的には見様見真似と研究管理のノウハウの混ぜ合わせのテクニックで凌いでいたことになります。多少運がいい方なので上手に凌げていた感もありますが,何より職業意識が無かったのが一番のミソです。つまり,完成度や業務実績にプライドのかけらもありませんでした。随分あれなので記憶にある範囲で簡単にメモを残しておきます。

 

1.依頼の受け方

炎上案件はその炎上理由に寄りますが,普通じゃありません。普通に対処すると人災が降りかかる恐れがありますので逃げることを常に頭の隅に置いておきましょう。消防士が火災現場で死傷してはなりません。

まず,炎上理由を確認しましょう。多くは関係者の無計画・無能などが考えられますが意図的な放火の類もあります。問題解決が可能であるかどうかの判断が重要です。安全サイドで見積もりましょう。依頼主や関係者が信頼に値する人かどうかも重要です。大会社の部長さんでも首が緩々の方もおられます。

次に交渉です。私は当時の師匠から着手金として半金頂くのが介入条件であると教わりました。消火中に別の連鎖災害の可能性もあります。そもそも負債ですので前金なしでの介入はありえません。また,ゴールの設定です。炎上案件では通常のゴールに到達できないのは当然です。納期が遅れている場合も珍しくありません。メディアの前でデモンストレーションをする一週間前に呼ばれたこともあります。ゴールラインを下げましょう。「最悪発注元から訴訟に持ち込まれることがなければOK」とかのライン引きになります。延長戦は他に依頼するとか条件付けでの介入も火消しならではの捌きです。

前金で終わることや訴訟リスクも視野に入れて,冷静に判断して自分に得があればやっと依頼を受けるということになります。炎上案件ですので少々渋ったフリを入れて着手金を上げるのも交渉ですが,無傷で帰る方を優先して下さい。

 

2.現場介入

炎上案件は普通じゃない引継ぎです。特に現場は心身とも疲弊したエンジニアが死屍累々となっていることが考えられます。チーム構成などは事前に頭に入れて置き,必要であれば個別に呼び出して今後の身の振りを指示します。お勧めは食事に誘って愚痴を聞くことです。炎上の詳細が分かりますし,メンバーから外す際にも「よく頑張ったね。ちょっと休みなよ。」と言いやすくなります。多くの場合は一番まともな一人を残してちょっと休めと言うことになるでしょう。それは恐らく元リーダー格ポジションのはずです。(そうでない場合はそれが炎上理由のひとつです)

引継ぎが難しい案件もあります。多く現場が引継ぎを嫌う場合です。自分の仕事と思い入れがあるんでしょう。使えるスタッフであれば残って頂いた方が戦力になりますが,ここはドライに切りましょう。もちろん介入時に権限移譲を頂いておくのもお忘れなく。この際リスクの大きい通知は自分でやる必要はありません。雇用主の仕事です。

実際は全権委任くらいの感じで介入するのですが,現場では救世主風ではなく「大変な仕事押し付けられた感」を出して協調していきましょう。何せ当時私は学生ですw

 

3.超特急案件

引継ぎがうまくいけばあとは非炎上案件と同じです。異なる点があるとすれば時間的に特急仕事であることくらいです。必要であればヘルプを呼ぶオプションを着手交渉に入れておくべきです。同類の火消しにネットワークが必要になります。「今日から三日徹夜仕事になると思うけど頼める?」と言える知人が数人居れば安心です。

超特急案件をひとりで納めれば日当10万円台が見えてきますが,体を壊さないように注意しましょう。無事に帰るまでが炎上案件です。

蒼き伝説シュート!のワンシーンで久保キャプテンが1点劣勢の場面で奇跡の11人抜きで同点にしますが,そういったことをしてはいけません。

 

4.火元データベース

炎上案件に介入すると実績評価が勝手にされて他の炎上案件でも呼ばれるようになります。こちらも依頼主を評価しておきましょう。A社のB部長は金が渋いが信頼できるとか,C社のD課長は社内では評価低いが技術的な察しが良いとか,アレはダメとか二度と組まないとか記録に残しましょう。同類の火消し連中と共有するのが重要です。場合によれば全員で蹴るなど示し合わせが必要になることもあります。火消しが火災を大きくしてはなりません。

 

ざっくり書きましたが,炎上案件介入は江戸の火消しと似ています。基本的に火元を特定し拡大をしないように破壊し,再構築となります。長期的に関わるものとは異なると理解してください。